女声合唱団 しらたま  委嘱作品
女声合唱とピアノのための「風のなかの挨拶」

信長貴富作曲・佐々木幹郎詩


Ⅰ. 鏡の上を走りながら

Ⅱ. 明日

Ⅲ. 風のなかの挨拶

●初演データ 2017年2月11日(土) 紀尾井ホール
 指揮:岸信介  ピアノ:法嶋晶子  合唱:女声合唱団 しらたま


●出版:音楽之友社 (1728円)

 

 

 《しらたま》は、2002年1月に東京都武蔵野市で結成され、指揮者に岸信介先生、ピアニストに法嶋晶子先生をお迎えして、「磨けば光る」を団のモットーに活動しています。そして、15周年を迎えた2017年2月11日(土)の第4回演奏会(於紀尾井ホール)では、委嘱初演という夢を叶えることができました。それが、信長貴富作曲、女声合唱とピアノのための「風のなかの挨拶」です。委嘱に当たって、信長先生にお伝えしたことは、(第2回演奏会の5日後に東日本大震災があり、メンバーのご両親が被災し、その後の私達の思いが彼女を通して東北に向いている)ということでした。以下、演奏会のパンフレットに信長先生が載せて下さった言葉です。
「テキストの選択にあたっては、佐々木幹郎さんが震災後、2011年春から秋に書かれた詩の中に強く惹かれるものがあり、3つの詩を選ぶに至りました。(中略)3つの詩はどれも悲しみを胸奥に秘めつつも、震災後の世界を生き抜くことへの励ましを与えてくれます。私が逃げずに作曲を遂げることができたのは、詩の言葉が徹底して生を讃え続けているからだと思っています。」
演奏会当日は、信長先生をはじめ、たくさんのお客様の前で「風のなかの挨拶」を初演することができました。しかし、それはやっとこの曲達から伝わってくる何かを全員で感じ始められた瞬間でした。

被災した経験がない私達が、この詩を深く読み取り感じることは難しい。だからこそ、信長先生の音楽を通してもっと表現したいという想いが沸きあがっていました。そして、故郷が壊滅し、被災地と東京を行き来していた、しらたまメンバーの彼女の想い「6年経った今、震災は忘れ去られようとしている。だからこそ、七回忌の今だからこそ、大震災の事を、未曾有の災害であったことを忘れてはいけない。それは、人類全てに与えうる警告。そのためにもこの曲を多くの人達に聴いていただき、歌ってほしい」この凛とした彼女の強い思いが、次の演奏の機会を引き寄せていきました。本当にたくさんの素晴らしい方々とのご縁がありお力添えを頂き実現へと話が進み、2017年10月13日、《東日本大震災からの復興を祈願する奉納演奏、平和と浄土を願う世界遺産中尊寺で、女声合唱とピアノのための「風のなかの挨拶」を歌う》を、中尊寺の本堂に於いて行うことができました。900年の間平和と浄土を願い続けてきた中尊寺で、復興と鎮魂を祈りながら演奏できたことは、何かに導かれていたようにも思えます。
この企画は、しらたま主催ではありましたが、一緒に歌う有志を募り最終的には62名での演奏となりました。当日参加して下さった有志は、東京、佐賀、宮城、山形、岩手からの34名。各地域で練習を重ね、本番当日、初めて全員が揃い、岸先生の熱いご指導と素晴らしい法嶋先生のピアノに支えられて3時間で仕上げました。そして、まるでいつも一緒に練習していたかのような一体感と集中力で、150人余りのお客様と、見えない魂の御前で奉納演奏することができました。
東北からの参加者の中には、ご自身が被災なさった方や、お知り合いが亡くなったり行方不明、という方もいらっしゃいました。本番後の交流会でその方達からこぼれ出た言葉「この曲を歌うことで、辛く避けていた事や固まっていた心から一歩踏み出すことができた」「あの時自分が見た、全てが無くなり瓦礫だけになった陸の彼方に美しく輝く海の光が、この歌のなかにも感じられた」、これらは、私達の心に深く刻まれました。

奉納演奏会の翌日の東日本合唱祭では、一関の合唱を愛する多くの方たちの前で、しらたまのメンバーだけで歌わせていただきました。そして、この曲のご縁はまだ続きます。2018年1月21日には、いわき市民合唱祭での演奏の機会を頂戴いたしました。福島という地で歌います。中尊寺での奉納演奏という経験を通して感じられたことがあります。「風のなかの挨拶」はどんな立場の方でも歌う意味、聴く意味があるのではないか、、、と。
コーラスの素晴らしさ、大切さを再確認し、これからも音楽にいつも真摯で謙虚で純粋でいたいと思います。表現し何かを伝え魂に届く歌を歌いたいと思います。そして、この「風のなかの挨拶」を、たくさんの方達が歌ってくださる事を願っております。